
AARI刺繍
From Sketch to Stitch
職人の手によって、刺繍がドレスに宿るまで。
Pasandのアイテムに施された繊細な刺繍。それは、東京で描かれた一枚のデザイン画から始まっています。日本で生まれた図案が、インドの職人の針先を通って、どのように布の上で息づき始めるのか。AARI刺繍という技法の特性と、その工程を追います。
デザイン画が布へ
AARI刺繍は、連続するチェーンステッチで模様を描いていくインドの刺繍技法。もともとはフック状の専用針(アーリ針)を使う手仕事として発展し、現在ではその表情を、職人が手で操作するチェーンステッチ用の刺繍機で表現することもあります。鎖状にひとつひとつのステッチが繋がっていくことで、独特の表情が生まれます。日常的に刺繍を身に着ける文化が根づいていて、サリーはもちろん、より現代的な形の服にも刺繍が施されているインドでは、その職人技が伝統的に育まれています。その技術力の高さから、インドの刺繍はオートクチュールやラグジュアリーファッションの制作現場でも重視されてきました。
Pasandの刺繍デザインは、日本のデザイナーが起こします。「インドにはすごく多様な模様があります。壁画、服、物語の中にも。大体が自然や植物をモチーフにしているんです」とデザイナーmiuは語ります。そうしたインドの豊かな装飾文化から着想を得て描かれる図案。完成した服のシルエットを想像しながら、線の太さ、密度、色のバランスを決めていきます。
「インドの刺繍技術は素晴らしいので、積極的に取り入れていきたいと思っています。ただインドでの伝統的な取り入れられ方をそのまま用いては、日本での着用シーンに馴染みません。そこで張りのあるシャツの生地に刺繍を載せることで、日本でも取り入れやすく綺麗に着用できるのではないかと考えました」(デザイナー・miu)
デザイン画がインドの工場に届くと、まず職人が手書きでトレーシングペーパー(トレペ)に図案を写し取ります。デジタルではなく、人の手で線を引く。この時点で、デザイナーの意図と職人の解釈が初めて重なります。
次に、“カカ(Khaka)”と呼ばれる転写用の図案をもとに、青いガイド線を生地へ写します。この線に沿って、職人が刺繍を進めていきます。完成後の処理によってガイド線は取り除かれ、刺繍だけが残ります。
一針ずつ、縫う
“カカ”と呼ばれる転写用の図案をもとに描かれた青いガイド線に沿って、職人はチェーンステッチ用の刺繍機を手で操りながら、柄を縫い進めていきます。職人の手は驚くほど速く、それでいて正確です。糸の色を切り替えながら、柄が少しずつ埋まっていきます。
インドの刺繍職人の多くは父親から技術を受け継ぎ、幼い頃から針を握ってきた人々です。「この仕事を続けて30年。ずっと続けているから、難しいと感じるところはない」と職人は容易い様子でしたが、その淡々とした言葉の裏には計り知れない蓄積があります。ミシンを巧みに動かしながら細かい曲線を描くのは熟練の職人だけが叶えられる繊細な手技です。
「マシンをセットアップして行う刺繍は、ブレがなく正確ですが、職人が手で操る刺繍には、それにしか出せない独特の味があります。だからこそ、デザイン画も手書きであることを大切にしているんです。自分が手書きで書いたデザイン画をインドの職人が受け取ることで、人の温もりがドレスに宿る気がして」(デザイナー・miu)
デザイン画と完成品
デザイン画と完成品を並べてみると、立体的な糸で再現された刺繍から職人の技術を感じ取ることができます。紙の上の線が、布の上の糸に変わる。その変換には、何年もの修練と、素材への深い理解が必要です。AARI刺繍の入ったPasandのアイテムを手に取るとき、そこに東京とインドの対話が織り込まれているのを感じてみてください。
Photography / Akemi Kurosaka
Text / Rio Hirai
AARI刺繍
From Sketch to Stitch
職人の手によって、刺繍がドレスに宿るまで。



















