
Chikan Embroidery|チカン刺繍
古くから刺繍文化が盛んなインドにあって、最も代表的なテクニックのひとつとされているのがチカン刺繍。
北インドのウッタルプラデーシュ州ラクナウ地方で、16世紀ごろに発祥したと言われるこのテクニックは、その地で暮らす女性たちを中心に代々受け継がれてきました。
当初はこの地域を支配した帝国における装飾品や贈り物として重宝されたこの技術が、現代の洋服にどのように生かされているのでしょうか。
ムガル帝国の発展とともに栄えたチカン刺繍は、王侯貴族が好んで着用したこともあって純白のモスリン生地に白い刺繍を施すという、極めて贅沢な方法として当初は広まりをみせたもの。
現代では、優美な印象はそのままに、白だけでなくさまざまな色の生地に豊富な選択肢の糸で繊細なデザインを縫い込んでいく技術として定着しています。
東京のオフィスから届いたデザイン通りに穴をあけたトレーシングペーパーに、ジェムパウダーを染み込ませた布を塗りこんでいく作業。
次第に生地自体にブルーの模様が浮かび上がり、職人が縫っていくガイドラインが立ち上がります。
写真で見えている右手と、生地の下で針を待ち受けている左手が澱みなく動き続け、見る見るうちに白い生地には優雅な立体感が生まれていきます。
この技術の一番の見せ場といってもいいのが、ふんわりとまるで空気を含んだかのような刺繍。職人が縫い進める様子を見ていると、昔から高温多湿だったインド北部において、通気性の良さと優雅なデザインを両立するチカン刺繍が人気を獲得したのはごく自然なことのように感じられます。
約500年にわたって進化を遂げながら、職人がひと針ずつ手で縫うという根幹は揺らぐことのない、チカン刺繍。王侯貴族の装いを彩ってきたこの技術は、時代を経て日常の衣服へと広がりながら今もなお、同じ手仕事によって支えられています。
デザインにもよるとは言うものの、ひとつのアイテムを縫いあげるのに約20時間、1日7時間縫い続けたとして3日かかる計算に。すべての工程が手作業で進められ、長い時間の積み重ねによって洗練されてきた立体感や風合いは、この刺繍ならではのものです。チカン刺繍が施されたPasandのドレスを着ることは、その歴史の重みを肌で感じることでもあるのではないでしょうか。
Photography / Akemi Kurosaka
Text / Pierre la Roche
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