

Pasand Home 自由に選び、つながるエッセンスを見つけて並べる
今回は、Pasandのオーナー夫妻、神 真美(以下Mami)と豊田 勝が暮らす自邸をご紹介。世界のさまざまな場所から集められたアートやインテリアプロダクトが丁寧に配置されています。どのコーナーも壁のない開放感にあふれ、それぞれ気配の異なる、陰影の印象的なつくり。光と風が抜ける家の様子を2回に分けてレポートします。

「ものは、市場の雑多な中で選ぶこともあれば、ギャラリーに依頼することもあります。豊田がジョギングの途中で見つけて抱えて帰ってきた、なんてことも。ピンときたら迷わず即決」
国籍やジャンルを問わず、さまざまな場所からやってきたものが不思議と調和する空間。
まずは、暮らしの中心となるキッチン/ダイニングへ。ベランダとフルフラットでつながる開放的なダイニング。白河石のタイルが、内と外をシームレスにつなぎます。
窓辺からの光を受けたダイニングの色調が、鮮やかなコントラストで目を楽しませてくれるのです。
「窓の内と外の段差をなくして同じ石の素材でつくるのは、基本のデザインをした豊田が最もこだわった部分の一つです。外とのつながりを心地よく感じられます」
フランスでつくられたダイニングテーブルやダイニングチェアと絶妙な調和を見せるのは、インドのブロックプリントでつくられたマルチクロスや、トルコのパッチワークキリム、アルミやガラスの花器と合わせた季節の花々。
さまざまな土地でその時代の手と思考を通過してつくられたものが、暮らしの風景として馴染んでいます。
「トルコでは、部屋の壁づたいに全て家具を置くので、床に敷き込んだキリムは時を経ても端っこがきれいなまま。それを切り取っておき、こうしてパッチワークでまた新しいラグになるんです」
一つひとつ物語があることを知って、大切に、けれど日々ガンガン使うのが、二人の流儀。
来客の多い二人の家では、このダイニングで食事を囲み、奥のソファエリアに移動したりしながら談笑を続けて時間を過ごします。

ダイニングからつながるソファのエリア。棚の中には、さまざまな土地から集めたアーツ&クラフツを。新しいもの、古いものが混在しながら、その時代、その土地の技術やセンスが投影されて、楽しみの小箱を覗くようなウォールシェルフです。密集させすぎず、少しずつ置くのがポイント。
スウェードタッチのマットな家具による穏やかな気配の中、イエローのラグが目を惹きます。
「春らしく、ラグを変えたの」とMami。季節は、色の配置から。
「ラグは、インドでつくられたシルク織。ターメリックで染めたもので、このように色が残っているのはとても珍しい。インドのジャイプールで見ました。ラグはたくさん積み重なる中からお店の人が一枚ずつ広げてくれるんです。埃がもうもうと立ってそれは大変ですよ(笑)」
クッションの赤、右側のサイドテーブルの赤、壁の棚に置かれたピンクの本が、ラグのイエローとのコントラストで、一段とフレッシュに引き立ちます。
そこに、季節を先取りする木蓮を。ローテーブルに設えられた細かなライン入りのガラスの花器は、枝ものを根元まで透かし、植物の力強い線を見せてみずみずしい芽吹きの生命力を伝えてくれます。

キッチンとは反対側の窓辺。窓を全て開け、ベランダとつながれば、圧巻の開放感が生まれます。さまざまなかたちの家具が低くゆったりと置かれる中、白い大きな球体の「AKARI」ランプが浮遊感あるアクセントに。
キッチンからひと繋がりの間の中に、さまざまなテイストがありながら、落ち着きが感じられるのは、同じ時代のデザイナーで基本的な家具を揃えているから。その多くは1950年代を中心にデザインされたミッドセンチュリーの家具です。
「家具は、20年ほど前から少しずつ集めてきました。例えば家にある家具のデザイナーの一人、スイス人のピエール・ジャンヌレは、従兄弟のル・コルビュジェが進めていたインドのチャンディーガル都市計画に呼ばれ、14年ほど滞在して設計に従事したひと。ジャンヌレがインドで生み出した家具デザインは、当時のインドに当たり前に存在した工芸技術を活かしたものでした。ありふれたテクニックをピックアップして、センスで統一感を出す。デザインするってこういうこと。私もそのようにものを集めていきたいな、と思いました」
それぞれのデザイン背景に敬意をもちながら、少しずつ集めた家具のコレクションを軸にして、インテリアのディテールが共鳴していきます。

インドのガネーシャ(ゾウの頭を持ち、豊穣や知識、商業の神様を表す。困難を取り去り、福をもたらすとされる)をはじめ、さまざまな土地から持ち帰った思い出も飾られている書棚。
二人の家には、所有するアートやプロダクトの関連書が散見されます。この書棚だけでなく、アートやプロダクトのそばには必ず関連書があり、興味のある人がすぐ本を手に取れるようになっていました。

西アフリカの原住民であるセヌフォ族によるスツール。一本の丸太から削り出してつくられる、1点ごとに異なるかたちが魅力です。川辺や土で家事の際に腰掛けて使うスツールは、国籍を超えたインテリアに馴染みながらも、用の美としてインテリアの中でもしっとりと存在感を放ちます。

西アフリカ、コートジボワールのバウレ族によるマスク。仮面舞踊で知られる民族の伝統工芸です。モノトーンの空間に、色調を揃えて飾ると違和感なくアクセントを加えてくれます。

キッチンにあるマスクは、カメルーンの工芸によるものです。同じアフリカでも表情や色彩が全く異なるのが興味深いところです。アルミのポットカバーには枝ものを、ガラスの透き通った花器には季節のカラフルな花を入れて、色の軽やかさが引き立ちます。

ガラスの花器は透明で主張しすぎず、けれどユニークなシルエットが楽しげな気配を広げます。 テーブルクロスには、ブロックプリントのマルチクロスを使用。柄や色は穏やかですが、この中にあるブルーや暖色系の色が、室内のさまざまな色と呼応して、統一感を生み出していきます。

フランスで生まれた手吹きの美しいガラスボトルの集合体が、壁のアートと色彩のリズムを奏でます。
壁のアートは、オーストラリアの先住民族であるアボリジナルによるアート。
「素朴で自然との結びつきを感じるプリミティブアートが好きで集めています。つくられたものと自然なものを混ぜたり、人々の日々の営みの中で生まれたものを混ぜ合わせて楽しみます」
独自のセンスと、過去への敬意をもって、さまざまな時代につくられてきたものをアートとして、日々のベースとして暮らしに取り込んできた二人。自由に選び、つながるエッセンスを見つけて並べる。そうすると、スパイシーでありながら調和の取れた、楽しいスペースが生まれます。
次回は、くつろぎのスペースを中心に、色彩や陰影との調和をさらに紐解きます。
Photograph: Akiko Baba
Text: Yuko Mori
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