
1枚のドレスの旅
デリーから東京へ、5,900kmの物語。
1枚のドレスが、あなたの手に届くまでに辿る旅についてご存知でしょうか。 Pasandが長年パートナーとして信頼を寄せるインドの工場、REALM(レルム)。デリー近郊にあるその場所には、一着のドレスが幾重もの手と工程を経て、少しずつ姿を現していく風景がありました。この記事では1枚のドレスがどこで生まれてどんな手を経て、あなたのもとに届くのかを辿ります。
布と糸のはじまり
艶のあるジャスミンの花穂の刺繍が施された、やわらかなコットンボイルのマキシロングドレス。揺れるフレンチスリーブと裾の繊細なギャザーが華やかで、ジャスミンの香り立つようです。
ドレスの旅は、東京でデザイン画が描かれたときから始まっています。
「刺繍のデザインは、夏に一枚で着る華やかなイメージで、ヴィンテージの資料から図案を作成しました。ジャスミンの花を3色の糸で表現しています」(テキスタイルデザイナー・Ai)
「年々暑くなる日本の夏に、涼しくすごせて且つ気分の上がるドレスを作りたいと思ってデザインしました。夏の旅行に連れていきたい、と思ってもらえるようなデザインを目指しました」(デザイナー・Miki)
そうして生まれた生地がREALMの扉をくぐったとき、その旅はいよいよ佳境に入るのです。今回のドレスのためにPasandが選んだのは、コットンボイル。さらっと軽くイージーケアで、暑い夏に一番適した素材です。インドの気候と職人の手が、長い時間をかけて育ててきました。この布地が選ばれるのは、美しいからだけではありません。誰かの手によって丁寧に作られたものだという、その背景にも理由があります。
REALMの工場、その一日
「インドでの物作りは、自分の手を離れて形になるまで思った以上に時間がかかります。距離があり文化も違う者同士が一つのゴールに向かうことは、コミュニケーションも手間も国内生産にくらべて倍以上かかりますが、その分一緒に作ったという共同作業の感覚が強くあり、そのプロセスがもの作りの質を高めていると感じています」(テキスタイルデザイナー・Ai)
「長年インドとお仕事をしてきているので、あまり距離感を感じなくなってきました。でも久しぶりにインドの人々に会えるととても嬉しいです」(デザイナー・Miki)
実際に工場を訪れるとそこは、働く人々の気配が満ちていながら、驚くほど静かでクリーン。インドの街中の混沌とした賑やかさとは別世界です。ここでは何十人もの職人が、それぞれの持ち場で黙々と手を動かしています。
─ 検品
刺繍が施された生地は、まず一枚ずつ検品台に広げられます。光に透かし、指で撫で、目を近づける。一針のゆるみも、糸の乱れも、ここで見つけ出します。この工程を担うのは、長年REALMで経験を積んだベテランのスタッフたちです。
─ 裁断
検品を終えた生地は、裁断へと移ります。なるべく残布が出ないように広げられた型紙に沿って、布が「服の形」に切り出される瞬間。一度切れば、もう戻れない。しかし熟練の職人の手には迷いは見えません。大きな裁断機を自在に操り、型紙通りに裁断していきます。
─ 縫製
縫製は、複数の職人がリレーして進めていきます。衿を縫う人、袖をつける人、細部を仕上げる人——それぞれが専門の工程を担い、ドレスは少しずつ形になっていきます。ミシンの音が、工場にリズムを刻んでいました。
─ アイロン
縫い上がったドレスは、アイロン台へ。熱と蒸気で布の表情が整えられ、ドレスは初めて「完成した服」の顔になります。この工程で、素材の持つ光沢や柔らかさが引き出されるのです。そうして最後に、丁寧に畳まれ、包まれていきます。誰かの手が、ドレスをそっと箱に納める。
午後4時になると、工場の空気がふっと変わりました。ティータイムです。Pasandの差し入れのサモサが回ってくると、さっきまで真剣な表情で針を動かしていた人たちが、声を上げて笑っています。同じ人たちが、同じ場所で、まるで別の顔。服を作ることを生業にするというのは、こういう一日の積み重ねのようです。
─デリーから東京へ
梱包されたドレスは、工場を出ます。デリーから東京まで、およそ5,900km。空路で約8時間。インドの空気をまとったまま、ドレスは海を越えていきます。
「まず、第一印象として素敵に仕上がっているかをみて、その後に寸法や縫製など指示通りに上がっているかを細かくチェックしていきます」(デザイナー・Miki)
「生地については、最初に依頼した指示からは少し離れていても、インド側の解釈で進行してくれたことで新鮮に見える場合もあります。良いものを取捨選択し、毎シーズンそのずれを楽しみながらものづくりができたらいいなと思います」(テキスタイルデザイナー・Ai)
服を買うということは、遠い場所の誰かの一日を、受け取ることなのかもしれません。Pasandのドレスを通して、インドと東京が、インドとあなたのクローゼットが繋がります。ドレスが旅してきた道のりを知ることは、世界と自分を繋げる、小さくて確かな行為になると信じています。
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Photography(India Part) / Akemi Kurosaka
Text / Rio Hirai
1枚のドレスの旅 デリーから東京へ、5,900kmの物語。





