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Kanazawa Behind Story|
ご縁が紡ぎ、歴史とクラフトが響き合う金沢店


伝統的な建物が残る金沢の街の一角に、2026年6月27日、暖簾をあげた「Pasand by ne Quittez pas KANAZAWA |パサンド バイ ヌキテパ 金沢」。おろしたての藍染めが、町家の軒下でゆったりと風に揺れています。

Pasand にとって、北陸初の店舗であり、路面店としても青山に続く2店舗目。金沢店のオープンは、いち新店舗の誕生にとどまらない、大切なチャレンジでした。

今回は、Relationship×Craftmanshipの掛け合わせによって生まれた、金沢店の「Behind story(舞台裏)」をご紹介します。


つながりから芽吹く、始まりの物語

工芸が息づき、街並みも美しい金沢。Pasandのオーナーである神 真美(以下Mami)と豊田 勝(以下Masaru)にとって、金沢は以前から大好きな街の一つでした。

今や金沢店のショップディレクターとして欠かせない存在である播本知子さんと、友人を介して出会ったことをきっかけに、金沢でPOP-UPを開催するように。以来、足繁く通うようになりました。

「北陸でのPOP-UPは金沢が初めてでしたが、訪れてくださる方々は本当に優しくて。次第に“お客様”から“友人”のような関係になり、金沢へ行くことが楽しみになっていきました」
そう話すMami。けれど当時は、金沢に店を持つ日が来るとは想像していなかったといいます。

ある金沢滞在中、移住を機に「自分の心が振れる方へと進むうちに、気づけばお店を開いていた」という友人を訪ねました。その町家空間に惹かれたことからご縁がつながり、その日のうちに出合ったのが、後に金沢店となる町家でした。

「中に入った瞬間、幸せな空気を感じて。古い建物ながらとても綺麗な状態で、大切に使われてきたことが一目で伝わってくる空間。金沢らしい色壁や建具のディテールも可愛らしく、良い予感に導かれるように、その日のうちに契約しました」

東京とはまた違う価値観の中で、もっと自由で面白い試みができるのではないか。二人がそう感じた金沢店には、キッチンも併設されています。
「いずれは料理人の方を招いたり、POP-UPなどもできたら。単に物を売り買いする場ではなく、語らいや出会いが生まれるサロンのような、関係性が育まれる場にしていきたいですね」


数寄文化が息づく金沢で、信頼するつくり手と共に

江戸時代から藩をあげて工芸を奨励し、茶の湯も盛んな金沢。今もこの街には「数寄文化」が息づいていると感じます。
つくり手に依頼し、道具や空間をしつらえ、人を招いて共に場を楽しむ。そこには互いのリスペクトと、感性の交流、そして豊かな遊び心があります。

Pasand by ne Quittez pas 金沢店もまた、私たちが信頼を置く方々と共につくりあげたお店です。ここからは、このお店を共に紡いでくださった方々をご紹介します。


一級建築士 | 山内 玲子
建物の記憶を尊重しながら、新たな風を通して

設計を担当いただいたのは、Pasandの店舗からMamiとMasaruの自宅まで、長年お任せしている一級建築士の山内玲子さん。「通っていた美容院が一緒」というご縁で偶然出会ってから、早12年のお付き合いです。

「設計に関することは、Masaruさんとやり取りをしています。MamiさんはMasaruさんのセンスを絶対的に信頼されていて、『船頭は何人もいらないから』と一切口を挟まない。そんなお二人の関係性が本当に素敵だなと、いつも思っています。」と語る玲子さん。

抽象的なテーマではなく、すでにある要素や関係性からブリコラージュのように立ちあげていくのがPasand流のものづくり。その中でも、今回明確にあったオーダーは「できるだけ、元の建物を生かしてほしい」ということ。

「新たに手を加えようと思えば、どこまでもできるけれど『作り変えてしまったら、ここでやる意味がない』とは、Masaruさんもおっしゃっていたことでした。増改築の跡なども含めて“この家が辿ってきた歴史”を尊重しながら、Pasandらしいエッセンスも少し加えて、新しい風を入れられたらと」

元々の壁や柱、建具も生かしつつ、傷んでいた2階の床を一部抜くことで、光がまわる開放的な空間に。部分的に壁を塗り直して漆喰の“白”が入り、元々あった金沢らしい色壁のニュアンスカラーもぐんと引き立ちました。

玲子さんが信頼を寄せる金工作家、長命佳孝さんに依頼した銅と真鍮製のハンガーラック。随所に生きる手仕事がPasandらしいテイストを加えています。


左官職人 | 本田 匠
美しさとを心地よさを静かに演出する、左官の手仕事

壁をはじめ造作のカウンターなども手がけてくださったのは、玲子さんのパートナーであり、同じく長年Pasandとご一緒いただいている左官職人の本田匠さんです。

「左官は手作業なので、人によってニュアンスが違いますし、仕上げも自分で決められる。そうした“手の痕跡”が残るところが、この仕事の好きなところですね」

オブジェのような存在感を放つ、五角形のカウンター。スタッフとお客様の境界となるような対面式のカウンターではなく、自然と隣り合い、会話が弾むような形状は、Pasandが大切にしている「関係性」を象徴しているかのようです。
また、この五角形の形状は加賀藩主・前田家の家紋「梅鉢紋」からも着想を得ているそう。

庭の灯籠とも呼応するような、時を経た石を思わせるテクスチャーは「掻き落とし」と呼ばれる左官技法によるもの。通常はコンクリートなどに用いられる技法を、今回は石膏に炭を混ぜた素材に応用したといいます。

「Pasandさんの仕事では、毎回必ず新しいトライを一つ入れるようにしているんです」そう語る匠さんの言葉には、尽きることのない探究心がにじみます。

カウンターの内部には収納スペースがあり、スタッフが使いやすいようにとの心配り。パーティーの際にはスタンディングテーブルのように使うこともでき、実用面にも工夫が凝らされています。

「お二人は、本物の名品を集めるコレクターであると同時に、そのコレクションを“使う”ことを大切にしておられます。だからこそ、“使われる空間”における仕事とはどのようなものか、いつも考えますね」

設計と左官、空間をかたちづくるお二人が共通して意識したのは“何気ない居心地のよさ”。

「町家の寒さを少しでも改善し、より快適に過ごせるように、各所で建物の性能をあげる工夫をしています」と玲子さん。また漆喰など天然素材は、湿気や匂い、音なども吸収し、意識に上らない心地よさを静かに演出しています。

「圧倒するようなものより、誰でも入りやすくて、つい長居してしまうような。そんな気持ちの良い空間になったら嬉しいですね」


造園家 | 天野 慶
季節ごとに訪れたくなる、陰翳礼讃の日本庭園

前庭と裏庭、美しい日本庭園を擁する金沢店。そんな贅沢な空間がまちなかに残っていることも、この街ならではといえます。

「今時代が一周して、こういったクラシックな美意識が求められている気がします」

そう語るのは「Yard Works」代表の天野慶さん。青山店のボタニカルや二人が暮らす自邸の庭も手掛けてきたガーデンデザイナーです。

「お二人とも口数は多くない方々ですが、佇まいや会社としての動き方から、言葉を介さずに伝わってくるものがあります。働く人へのリスペクトや、物を大切に使い継ぐこと、その美意識。そういったものを感じ、紐解きながら、いつもアイディアを考えていきます」

金沢店の庭を作るにあたり、天野さんの心に浮かんだのは、小説家・谷崎潤一郎が唱えた「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」というキーワード。

「例えば、苔に落ちた木漏れ日や、古いガラスの揺らぎ越しにみる緑、障子に映る影ー‥。日本人にとっての美しさって、“ドカン”とわかりやすいものよりも、ワンクッション置いて、間接的に感じとる美しさだと思うんです」

ガーデンデザイナーを目指すきかっけともなったパリ旅行で、日本庭園の魅力にも開眼したという天野さん。「現代の植栽と庭師文化の融合。それが僕のオリジナリティだと思っています」。


金沢店の前庭にも、黄金色の幹が美しい金明姫淡竹(キンメイヒメハチク)と、エスニックな風を感じさせるアガべ キシロナカンサが共存。どちらも耐寒性があり、冬の寒さが厳しい金沢でもしっかりと根を張り、育ちゆくものが選ばれています。

そして裏庭において大切にしたのは、すでにある植物を生かすこと。
「エネルギー溢れる赤松や、可憐なピンクの花を咲かせるツツジ。時間をかけて育まれ、この土地の記憶を持つ植物をなるべく生かしながらも、要素を少し“引き算”することで、魅力がより引き立つよう整理しました」。

ブロック塀には杉皮壁を重ねたことで、趣がある背景が生まれ、木々はもちろん洋服もより美しく映えるように。

庭の随所には、金沢の豊かな四季を楽しめるようにと様々な工夫が。 「梅雨にはヌキテパの服を思わせる紫陽花、秋には真っ赤に染まる紅葉やドウダンツツジ、冬には雪景色…。ぜひ季節ごとに訪れて、庭も楽しんでいただきたいですね」


漆芸家 | 杉田 明彦
古の技法と時を重ねた、漆絵のテクスチャー

まるで昔からそこにあったかのように、吹き抜けの空間に馴染んでいるのは、金沢在住の漆芸家・杉田明彦さんの平面作品。何層にも塗り重ねられた漆が、中世のフレスコ画のような時間の蓄積を思わせ、空間に奥行きを与えています。

「古い技法を自分の中に蓄えておいて、それらを組み合わせたり応用しながら、作りたい表情を模索しています」と語る杉田さん。

この作品は、MamiとMasaruが杉田さんの汁椀を愛用しているご縁から工房をたずね、一目惚れしたもの。杉田さんは日常づかいの漆器の量産からアート作品まで、幅広く制作しています。

「自分としては、古いものや現代の器、工芸やアートにしても、分けて考えているわけじゃないんです。肩書も “ただ漆をしている人”というニュアンスで『漆工』としています。なのでお椀を使っていただいているお二人に、絵も気に入っていただけたのは嬉しかったですね」

シックな印象が強い漆ですが、今回ヌキテパの鮮やかな色彩と響き合い、その穏やかな艶が空間に揺らぎや表情を添えています。

「黒と赤以外の、漆で表現する色を模索していたので、この色彩感覚と軽やかさは、僕自身とても勉強になりました。こんな風に自由に使っていただけることが、ものをつくる醍醐味でもあって。僕は作品を介して“人に合うこと”が、ものを作る意義なのではないかと思っているんです」


使われることで、生きてくる空間

こうして、数々のつくり手の真摯な仕事によって生まれた金沢店。オープンを前に、設計の玲子さんはこう語られました。

「建築としてできることは細かいところまで気を配り、より良い空間や建物になることを目指していますが、そこに、MasaruさんとMamiさんがセレクトされた家具や小物、アート、植物などがしつらえられると、空間が本当に“いきいき”としてくるんです。お二人のエッセンスが加わって空間が変化していく様子がいつも楽しみです」

画像

関係性の中で芽生え、オーナーとつくり手が刺激し合うものづくりの中で形づくられた金沢店。

つくり手の想いが宿るこの空間で、ゆっくりと流れる豊かなひとときをお過ごしいただける日を、心よりお待ちしております。

Pasand by ne Quittez pas KANAZAWA

石川県金沢市高岡町11番13号
電話番号 080-7599-3425
営業時間 11:00~18:00
定休日  月曜・火曜(※祝日の場合は翌営業日休み)


Photo&Video : Masato Oyachi
Text : Wakana Yanagida

Kanazawa Behind Story|
ご縁が紡ぎ、歴史とクラフトが響き合う金沢店